熱は測れるのに、自分の疲れだけは測れませんでした

スマホに、写真が1枚届きました。

体温計の写真です。

39.1°C。

・・・分かりました。

「管理室で休んでて。急いで行くから」

そう返して、鍵を持って玄関を出ました。

心の中では

「もう誰か代わりに入ってよ」

と思いながら。。

ずいぶん前の、ボクの夜の話です。

いまはひとりで仕事をしているので
夜中に呼び出す相手も
呼び出される相手も、いません。

それなのに、この写真のことは
いまだに時々、思い出すんですよねぇ。

あの夜のボクに足りていなかったものが
この1枚に、はっきり写っていたからです。

もう誰か代わりに入ってよ

ボクは以前
知的・精神障がいのある方のグループホームをやっていました。

住まいなので、24時間体制です。

そして、スタッフはずっと足りませんでした。

募集をかけても、なかなか来ない。

来てくれても、夜勤のある仕事なので
続かない方もいます。

穴が空いたら、誰かが埋めるしかありません。

夜勤なんて、連日は入りたくないんです。

入りたくないんですが、人がいないんだから
しょうがない。

利用者さんは、そこで暮らしているので。

今夜は誰もいませんでした

というわけには、いかないんです。

何日か連続で夜勤して

やっと明日は休めるぞ!

というところで、電話が鳴ります。

「すみません、熱が出てしまって・・・」

・・・分かりました。

急いで用意して、夜勤へ。

その翌日は
無事に世話人さんが入ってくれました。

夜に泊まってくれる、スタッフさんです。

やった。やっと休める!

そこに届いたのが、あの39.1°Cです。

これが、1回や2回では終わりません。

そういうのが、ずーっと続きました。

不思議なもので、慣れるんですよねぇ。

スマホが鳴った時点で
ああ、これ、行くやつだな、と分かるようになります。

分かるようにはなるんだけど
軽くなるわけではないんです。

そのころのボクは、けっこう平気なつもりでいました

こんな話をすると
さぞかし大変だったでしょうねぇ、と言われます。

でも、当時のボクは
けっこう平気なつもりでいました。

走っていたから、できていると思っていたんです。

回せている、と。

だって、実際に回っていたので。

今夜も誰かが泊まっているし
利用者さんの生活は続いている。

回っているんだから、大丈夫。

そう思っていました。

いま仕事が回っている人ほど
たぶん、同じことを思っています。

回っているうちは、疑う理由が
どこにも無いんですよねぇ。

「よゆーで、にじみ出ちゃってたんだね」

ずいぶんあとになってから、知ったことがあります。

まわりのスタッフも、実はクタクタだったこと。

そして

ボク自身の疲れも、時々おもてに出ていたらしいこと。

マジで、オレ、疲れてるつもりなんてなかったのに。

そんなの出してるつもりも、なかったのに。

「ああ、もう全然、よゆーで
 疲れがにじみ出ちゃってたんだね」

・・・これ、けっこうしょんぼりしました💧

隠していたつもりが、そもそも無いんです。

無いものは、漏れようがない。

そう思っていたのに
まわりの人にはぜ〜んぶ見えていた。

見えていなかったのは
ボクだけでした。

体温計を持っていたのは、ボクではありませんでした

ここで、39.1°Cの話に戻ります。

熱を出した世話人さんは
体温計で、数字を測ることができました。

39.1°C。

数字が出たから

「今日は休ませてください」

と言えたわけです。

数字は、本人の気合いと関係ありません。

まだやれますと思っていても
39.1°Cなら休む。

そこに議論の余地がないんですよねぇ。

では、ボクのほうはどうだったか。

ボクの疲れを測る体温計は
どこにも無かったんです。

無いので、こう判定するしかありません。

「まだ動けているから、大丈夫」

これ、判定しているようでいて
実は何も測っていないんですよねぇ。

動けなくなるまで、ずーっと大丈夫が出続けます。

そして動けなくなった日に、初めて数字が出る。

それでは、ちょっと遅いんですけども。

あのとき足りなかったのは
根性でも、人手でもなくて

体温計でした。

隣が涼しい顔に見えるのも、たぶん同じでした

渦中でいちばんキツいのは
しんどさそのもの、ではないと思っています。

自分だけが事故っている。

自分だけが、うまくいっていない。

そう思えてしまうこと。

これが、いちばんキツい。

同じ福祉の他の事業所を見ると
涼しい顔で回っているように見えました。

話をすれば、どこも大変だと言うんです。

言うんだけど
それでもちゃんと回っているように見える。

大宮で飲食店を立ち上げた友人がいます。

駅前で、周りにも飲食店がいっぱいあって。

実際のところは、分かりません。

分からないんだけど
外から見ると
どこもうまくやっているように見えるんですよねぇ。

でも、あっちから見たボクも
たぶん、涼しい顔で回しているように見えていました。

ここ、同じことが起きています。

自分の中身は、自分から見えない。

他人については、外側しか見えない。

この2つがそろうと

「オレだけ、なんでこうなんだ?」

が完成するわけです。

材料が両方とも、そもそも欠けているんですけども💧

ずいぶん経って、やっと測れました

いまこうして
夜勤の話を書いています。

ということは
あの頃のボクの体温は、いまなら測れるということです。

ずいぶんかかりましたけどねぇ(笑)

渦中にいる人が
自分は成長しているなんて1mmも思えないのも
たぶん、同じ理由です。

自分の姿は、自分からは見えないので。

見えなくて、いいんです。

渦中とは、そういうものなんで。

ただ、ひとつだけ
いますぐできることがあります。

近くにいる人に、聞いてみてください。

「最近のボク、どんな感じに見えます?」

自己申告よりも、そっちのほうがずっと正確です。

体温計は、たいてい
自分ではなく、まわりの人が持っていますからねぇ。

ちなみに、あの最悪だった夜も
いまはこうして、記事のネタになっています。

ネタづくり、ネタづくり。

一杯のお茶を味わうように
心に素直に、人生を味わい尽くす。

大高邦男(Kuny)


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